いつだって、人生はものがたり。

あなたの人生、本にしませんか?

がめつく生きろってなんだよ。20年前の先生に言いたいことがある。


「がめつくなれよ、もっと」

 

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はぁ? しかなかった。三者面談で目の前にいる担任の先生の言葉。隣に座っている母も黙っているので、同じ気持ちだろうとチラッと見やると、なんと泣いていた。家に帰ってからも母は、「あの先生だけよ、あんたのこと、わかっとるのは」とまたウルウルしていた。意味がわからない。

「がめつくなれ」とは、標準語風に言えば「積極的に」の意味。もっと汚く言えば、「人を蹴落とすぐらいの気持ちでいけ」学区内で最難関の高校を目指すなら、それくらいの気持ちでいけ、と先生からの激励だった。

 

心を打ち抜かれたのは母だけ。そう言われても、私的には努力しているし、野心だって隠しているだけでけっこうある。敵意をむき出しにするのはかっこ悪いし、能ある鷹は爪を隠すっていうやん。もっと欲望をむき出しにしろとか言われても、高校受験のために生き方のスタンスを変えろってか。

 

モンモンとしている私をよそに、母はすっきり顔。自分の代わりに先生が言ってくれたから大丈夫。そう思っているみたいだった。こっちは全然、納得してないんだよ。いったい、何がいけないのさ、ふん。

学校の先生にそんなことを言われたのは、これが二度目。最初は小学校の卒業式。約30人のクラスで順番に先生から呼ばれて、色紙に書かれた、生徒にぴったりの言葉をもらう。愛とか誠とか、かっこいい言葉をもらってうれしそうに戻ってくる友達を見て、ワクワクしていた。

 

男子と本気で取っ組み合いのケンカをする学校一の熱血先生で、生徒にこびないところが好きだった。やっと名前を呼ばれて前に出る。だけど、そこに書かれていたのは、「自発」の二文字だった。は? なんじゃそれ? もっとカッコいいのないの? 私、けっこう努力するし、成績も悪くないし、クラスのみんなと仲良くできる。もっと他にあるでしょ、ほら、なんていうか……。

「お前はナニもらった?」「オレはこれ!」先生からもらった言葉はゼッケンの背番号みたいで、自分の代名詞のようにみんなうれしそうに話している。だけど、私はその輪の中に入れない。

 

自発? なにそれ? これが私の代名詞? どういう意味? 自分で発する? 何を? バカと書かれた紙を背中に貼られているくらい、はずかしかった。友達の言葉は、その人となりを表しているのに、私のは明らかにお前にはこれが足りないと言われていた。なんで、なんで私だけ。

いったい何なの、先生たちは。私の何を見ているの? 自発。がめつくなれ。どうすればいいの? 人の気持ちなんて無視して、やりたいようにやれってこと? 答えのないまま20年近くが過ぎた。そして、もうそんなことなんて忘れていた。

娘が昼寝をしている間は、撮り溜めているビデオの時間。たまたま付けたのは、職業も性格も違う女子二人が、一週間だけ香港に住んでみるという番組だった。

 

冒頭から胸がぞわっとした。二人で住む部屋、行きたいところ、食べたいもの、撮りたい写真をどんどん言って、どんどん実現していく人と、「特にこだわりないから」と言って流れていくだけの人。テレビなんだし、楽しい! かわいい! おいしい! というのは当たり前で、二人とも満喫しているように見えるのに、決定的に違うことがあった。やりたいことを発言して、自分で実行していく人と、その流れに乗っかっるだけの人。

これまでの私は、誰かが作った波に乗っかって楽しそうに泳いでいるだけの人生だった。だけど、乗りたい波に向かって走ったり、波すらも自分で作る人に猛烈に惹かれた。それこそ、「がめつく」生きていた。傍から見ていて、そっちのほうがゼッタイ楽しそうだった。

先生も私をそんな風に見ていた? もっと自分の気持ちを外に出せ。外に出すことは相手を押し込めることじゃない。自分の人生、限りある時間をどう使うか、自分で舵を取ってごらん。舵を取るのは「こうなりたい」っていう夢があるから。「こうしたほうがいいのかな」じゃなくて、「こうなる」それさえあれば、もっと楽しくなるよ。お前にはそれができる。先生はそう言ってたのか……。

舵を取るのが怖かった。人の思うように生きないと自分には何もないから、とりあえずめちゃくちゃ努力して、人の望むように、はみださない程度にやればいい。そうすれば、傷つかないから。傷つきたくない。私、ずっとそう思ってた。だから、気持ちを隠してきた。だけど、傷つかないように生きても何も楽しくない。楽しく生きていない人を見ると、なんか悲しくなる。これじゃ、ダメだよなって思う。私、もしかしたら、そんな人だったのかも。なんか、めっちゃくやしい。

人生にがめつくなれ。楽しむことにがめつくなれ。先生、やっとわかったかもしれない。私、見つけたかもしれない。今、こうやって書いているのは、自分で発するってことですよね? どこかで見ててくださいよ! 遅くなったけど、今からゼッタイがめつく生きてやるから!


がめつく生きろってなんだよ。20年前の先生に言いたいことがある《ふるさとグランプリ》 | 天狼院書店